CAEの過去と未来~進化するシミュレーションと設計者の新たな役割~
かつて、CAE(Computer Aided Engineering)は限られた業界や専門性の高いエンジニアのみが扱う「高嶺の花」とされていました。Femap with NastranやABAQUSといった代表的なCAEソフトウェアは、その精密さと信頼性から航空宇宙や自動車業界などで広く使用されてきましたが、その利用には高度な知識と多くの時間を要し、導入のハードルは決して低くありませんでした。
しかし、時代は変わり、CAEソフトウェアの進化、計算機性能の向上、ユーザーインターフェースの改善などにより、CAEは設計初期段階へと活用領域を広げています。
<CAEの普及率という現実>
2020年代初頭の調査では、日本国内の製造業におけるCAE活用率は約30%程度とされていました。大手企業では7〜8割に達する一方で、中小企業では導入が進んでいないケースも多く、業界全体で見れば「活用余地が大きい」と言えるでしょう。一方、欧米や韓国・中国などでは、政府主導のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の中にCAE活用が含まれることも多く、企業の競争力向上に直結する技術として定着が進んでいます。
<設計者CAEとメッシュレス解析の台頭>
特に注目すべきは、SOLIDWORKS SimulationやAutodesk Inventor Simulationといった「設計者CAE」の普及です。これは、設計エンジニアが3D CADベースで簡易解析を行い、早期に設計の妥当性を検証する手法です。高度な解析は従来通り解析専任者が担いつつも、前段階での判断精度を飛躍的に高める役割として設計者CAEの導入が急速に進んでいます。
さらに近年では、「メッシュレス解析」と呼ばれる新しいアプローチが注目されています。従来の有限要素法(FEM)では、解析前に幾何モデルを細分化する「メッシュ作成」に多くの時間を費やされていました。これがCAEのボトルネックとなっていました。
メッシュレス法(例:SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)、MPS(Moving Particle Simulation)、XFEM(Extended FEM)など)は、形状が複雑・破壊を伴う現象にも強く、メッシュ作成が不要または簡略化されるため、次世代CAEとして期待されています。特に流体と固体の連成解析や、成形・破砕・落下などの非線形・大変形問題においては、メッシュレス法が従来のFEMでは困難だった領域をカバーしつつあります。
<未来のCAEは「誰がどう使うか」>
クラウドCAE、AI解析支援、自動最適化。これらの技術は、CAEを単なる解析ツールから意思決定支援ツールへと変貌させています。未来のCAEは、より「早く」「広く」「深く」使えるものへと進化するでしょう。そしてそれを最大限に活用するのは、従来の“解析者”ではなく、設計・開発の中心で問題解決に向き合う全てのエンジニアであるべきです。
CAEの未来としては明るいですが、CAEはあくまでツールの1つに過ぎません。その価値を最大限に引き出せるかどうかは、最終的には「ユーザーの思考と目的意識」にかかっています。