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Technical information (Column)技術情報(解析コラム)

2025.10.20

流体力学シミュレーションにおける最近のディープラーニング手法についての話

  1. 1. はじめに

  2.  ディープラーニング(深層学習、AI)は様々な分野で利用され、成果を上げています。製品設計&開発分野でも、解析ソルバの入出力データを教師データとして予測モデル(サロゲートモデル)を構築し、解析ソルバを使わないで効率的に設計を行う多数の試みが行われています。
     一般的な深層学習では、教師データにおける入出力関係を再現できるような予測モデルを構築しますが、物理法則(解析ソルバの基となる支配方程式等)を利用しないので、教師データの内挿範囲でしか予測できません。
    設計パラメータが特定部位の寸法で、目的変数が特定部位の応力のような課題に対しては、十分に利用できますが、解析ソルバのように、対象の形状、物性、その他の解析条件を入力とし、物理量の分布、時刻歴を出力とするためには不向きです。
     なぜかというと、予測が内挿範囲となるので、予測したい範囲の「形状、物性、その他の解析条件」と「物理量の分布、時刻歴」を教師データとして学習しなければならないので、そのデータ量が膨大であることから、大規模な計算資源を必要とすることになるからです。
     そこで現れたのが、PINNs(Physics-Informed Neural Networks)(2017年)という手法です。 日本語では「物理法則に基づいて情報を与えられたNN、物理駆動型NN、物理誘導型NN、…」(NNはニューラルネットワークの略)等と呼ばれます。

 

2.  PINNsの概要

 PINNsは発展し続けており、現在では様々な手法がありますが、予測結果と支配方程式との誤差を小さくするように学習するということを基本としています。また、PINNsによる予測モデルは、[深層学習による予測モデル]+[支配方程式(偏微分方程式(PDE))]というような形式で、依然として方程式の形式で記述できないような物性モデル等は、深層学習による予測モデルに組み込まれます。
 このことは、PINNsの適用例に流体解析分野が多い原因の1つとなっています。構造解析分野では物性モデルの重要度が大きく、しかも種類が多数あることが、深層学習による予測モデルの作成を難しくしています。また、流体力学シミュレーションの計算時間が、他の分野と比較して長時間になるということが、深層学習により予測モデルを作成することの大きな動機となっています。
 
  1. 3. PINNsの利用

  2.  PINNsを利用するにあたっては、利用しやすいフレームワークが存在しています。ここでは、その中から「NVIDIA PhysicsNeMo」「DeepXDE」の2つを紹介します。これらのフレームワークはPINNsの基本機能は作成済みで、GPUにより高速化されています。よって、利用者は課題特有の部分(支配方程式、教師データ入力、対象形状、境界条件、...)を構築(設定)すればよく、そのための機能も用意されています。
 
名前 用途 特徴 注意点

NVIDIA PhysicsNeMo

産業応用

高速・高精度、多数の手法や多数のPDEが既存

セットアップがやや複雑、NVIDIA環境推奨
DeepXDE 教育・研究 多様なPDEに対応 初期条件、境界条件への依存性が強く、計算資源も多く消費

 

  1. 4. 流体力学シミュレーションならではのPINNs

 一般的なPINNsにおける深層学習は、標準的なNeural NetworksやConvolutional Neural Networks(CNN,畳み込みNN)が利用されることが多いです。
 一方、流体解析の手法の1つである粒子法に着目すると、Graph Neural Networks(GNN)との類似性が見られます。
 GNNではデータ構造をノードと呼ばれる点と、ノード間を結びつけるエッジと呼ばれる辺から構成されており、ノードやエッジに結びつけられた特徴量(変数、データ)があります。これらが、粒子法における粒子と近傍関係に対応します。
 まとめると、次のようになります。
 
[解析ソルバ]⇒[NN]+[支配方程式]
 
 NNでは、与えられた偏微分方程式以外の物理モデル、対象の形状、初期条件、境界条件の影響を学習します。よって、予測モデルは教師データで与えられた対象の形状、初期条件、境界条件の範囲内でのみ予測できます。
 
[粒子法ソルバ]⇒[GNN]+[近傍定義アルゴリズム]
 
 GNNでは、物性に関係した粒子間相互作用を学習する。よって、予測モデルは対象の形状、初期条件、境界条件に対して汎用性を持ちます。
 このように、深層学習の手法と解析手法の類似性を得ることができれば、効率的に予測モデルを作成するとともに、高精度化、高汎用化も期待できます。
 冒頭にある動画は、この手法により作成された予測モデルでの予測結果です。MPS法で81分かかる計算において、同じ計算機での学習時間が69分、予測時間が9分となるケースです。
 

5. おわりに

 弊社では、AI/機械学習の導入支援サービスとして、セミナーによる学習支援、既存AIサービスの調査支援、AIをCAEに適用するための研究・開発支援を行っております。本コラムの詳しい内容につきましては、セミナーにてご紹介しております。