同じInventorなのになぜ2つある?
― 構造解析ツールの成り立ちと役割の違い
設計者が線形静解析で「問題ない」と判断した部品が、試作段階で予想外に破損してしまうことがあります。原因を調べてみると、部品同士の複雑な接触や材料の非線形な挙動が影響しており、線形静解析だけでは再現できない現象だった、というケースも少なくありません。

CAEを活用していくと、使用しているツールごとに得意なことと苦手なことがあることが分かってきます。ただし、対応できる解析範囲の違いはツールの優劣によるものではなく、それぞれが異なる目的に合わせて開発されているためです。そのため、「どちらが優れているか」ではなく、「何を目的に利用するか」という視点で選ぶことが重要になります。
今回お話するInventorには、構造解析機能として「Inventor Professional 構造解析」と「Inventor Nastran」の2つがあります。どちらもInventor環境で利用できる解析ツールですが、その成り立ちや開発目的は大きく異なります。今回は、この2つのツールがどのような背景から生まれ、どのような役割を担っているのかについてご紹介します。
1. CADの進化の中で生まれた設計者用CAE
3DCADが普及し始めた頃、設計者は形状を作ることに集中し、解析は専門部署が行うのが一般的でした。しかし、製品開発のスピードが求められるようになると今度は、設計段階でも解析を行い早期に問題を発見したいというニーズが高まりました。この流れの中で誕生したのが「Inventor Professionalの構造解析」の機能です。3DCADの操作性を維持したまま、設計者が自分で強度の一次評価を行えるようにする、という設定で開発されました。
2. 航空宇宙系CAEの系譜をもつInventor
一方で、設計者CAEは操作性を重視して開発されており、複雑な現象を扱う高度解析には依然として相応のCAEツールが必要でした。そこでInventorで高度な解析を行えるようにするために開発されたのが「Inventor Nastran」です。Inventor Nastranのルーツは、航空宇宙産業で使われてきた Nastran(NASA Structural Analysis)にあります。航空機などの構造解析を行うために開発されたNastranを組み込むことで、高度な解析への対応が実現しました。
3. 背景の違いが機能の違いになる
ここまでお話したように、両ツールはそもそもの開発目的が異なります。「Inventor Professional 構造解析」は、設計者がCAD上で手軽に強度の一次評価を行うことを目的として開発されました。そのため、Inventorの操作感を維持しながら解析を実行でき、比較的短期間で習得できる点が特徴です。一方、「Inventor Nastran」は、より高度な解析をInventor環境で実現することを目的として開発されました。そのため、設定項目や解析機能が豊富で、非線形や振動などの複雑な現象にも対応できますが、その分、習得には一定の知識と経験が求められます。つまり、両者の違いは優劣ではなく役割の違いです。

まとめ
CAEツールは「どちらが優れているか」ではなく、「何を目的に使うか」で選ぶことが重要です。自社の開発プロセスや解析目的に合わせて適切なツールを選択することで、CAEをより効果的に活用することができます。 Inventorで構造解析の実施を検討する場合、
・設計段階で迅速に強度の目安を確認したい → Inventor Professional 構造解析
・より現実に近い条件で高度な解析を行いたい → Inventor Nastran
というように、目的に応じて使い分けることができます。
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